2025年9月26日、兵庫県神戸市の兵庫県立大学において、**「Mini-Workshop on Particle-Based Cloud Modeling 2025(粒子ベース雲モデリング・ミニワークショップ2025)」**が開催されました。
本ワークショップには、世界各国から研究者が集まり、雲微物理、エアロゾル―雲相互作用、数値モデリング手法など、最新の研究成果や知見について活発な議論が行われました。
ワークショップでは、スーパー・ドロップレット法(Super-Droplet Method, SDM)、ビン・DNSシミュレーション、氷結過程、ラグランジュ粒子追跡法、レーダーシミュレーター、そして近年注目されている量子計算の大気科学への応用など、最先端の研究テーマが取り上げられました。
参加者は、実験室実験、現場観測、数値モデリングの統合の重要性を改めて確認し、雲や降水過程の理解をさらに深めるための方向性について意見を交わしました。
本ワークショップは、次の3つのセッションで構成され、それぞれが粒子ベース雲モデリングの異なる側面に焦点を当てました。
-
セッション1: 粒子ベースおよび高解像度モデリングによる雲滴成長、エアロゾル感度、雲組織化過程の新たな知見
-
セッション2: モデル、実験、観測の枠組みを結びつけ、都市から惑星スケールまでの雲過程を理解する試み
-
セッション3: 多階層スケールの粒子ダイナミクス、次世代計算技術、および大気・海洋システムの学際的連携への挑戦
セッションの概要
セッション1では、粒子ベースモデリングを用いた雲滴成長、エアロゾル感度、雲構造の組織化に関する研究成果が紹介されました。
乱流による「エディーホッピング機構」が、清浄および汚染環境下での雲滴スペクトル拡大に寄与することが示され、SDMに基づく粒子追跡フレームワークが提案されました。さらに、積乱雲に対するエアロゾル濃度の感度実験や台風環境における上昇流構造の変化が報告されました。DNS・LES・メソスケールシミュレーションを用いた収束線状降水系の形成過程や、ホログラフィ粒子追跡実験による衝突過程のモデル化改善など、観測とモデルを結ぶ研究が議論されました。
セッション2では、モデル、実験、リモートセンシング解析の統合による統一的な雲微物理表現の構築を目指した議論が展開されました。
City-LESモデルによる都市気象・ミスト拡散・熱ストレス緩和の高解像度シミュレーションが紹介され、さらに混合相雲のモデル間比較実験では、格子解像度や微物理スキームが氷化速度に与える影響が明らかにされました。
加えて、対流チャンバー内でのエアロゾル濃度と雲滴構造の関係、金星の硫酸雲における分岐・安定性解析、時間依存型氷結モデルの重要性などが議論されました。
最後に、SDM出力へのレーダーシミュレーター適用が紹介され、BIN型データの利用による観測再現性の向上が報告されました。
セッション3では、多スケール粒子ダイナミクス、氷成長過程、学際的モデリングの新展開がテーマとなりました。
高レイノルズ数DNSによる雲滴の慣性クラスタリングの研究、二峰性降水粒径分布に関するモデリング、湿潤・乾燥成長を区別する二段階着氷モデル、および確率的雲表現への量子計算応用が紹介されました。
さらに、海洋生物学的炭素ポンプに関する発表では、粒子過程が地球規模の炭素循環と気候システムに果たす重要な役割が強調されました。
総じて、本ワークショップは、計算科学の進展、実験的検証、観測データの融合を通じて、地球および惑星大気における次世代の粒子ベースモデリングの発展に向けた国際的な議論の場となりました。
オンライン・現地を合わせて60名以上の参加者があり、発表者の皆さまの貴重なご講演と専門的なご知見の共有に心より感謝申し上げます。
キーワード: 粒子ベース雲モデリング、雲微物理、大規模渦シミュレーション(LES)、直接数値シミュレーション(DNS)、乱流